サンタからの贈り物

 これは私がまだ物心がつくかつかないか、記憶はあるが何歳の頃かまでは覚えていないくらい小さかった頃の、クリスマスの話だ。


 クリスマス、それは誕生日に並ぶビッグイベント。ケーキとご馳走を食べられる上にプレゼントまで貰える、年に一度のウルトラスペシャルハッピーデーである。


 美味しいものが食べられてプレゼントが貰えるという点は誕生日と一緒だが、クリスマスの良さは「朝起きると枕元にプレゼントが置かれている」というエンタメ性にあると私は思う。


 12月25日の朝に目を覚ました私は、言いようのない高揚感でいっぱいだった。

 今年のプレゼントまんが家さんセットかな、かわいいペットかもしれないな、いやいや、カッコいいローラースケートだったらどうしよう。胸を高鳴らせて枕元を見た。


 ……小さい、というか、薄い? 少なくともローラースケートなどではない。よし分かった、きっとゲームカセットか何かだろう。そうに違いない。胸を高鳴らせて包装紙を解く。



包みの中のそれは、絵本だった。



 別に好きでもないキャラクターが主人公の、飛び出しもしなければ音も鳴らないただの絵本。

 弟のプレゼントも私とほぼ同様で、ケロロ軍曹のファンブックだった。「普通に好き」なアニメに位置するケロロ軍曹のファンブックだ。(一応フォローしておくがディスっている訳ではない)


 私はこのプレゼントを何かどデカいプレゼントの前座だと思い、辺りを探した。めちゃくちゃ探した。


無い。どこにも何も無い。



 当時マセた子供であり、サンタクロースが父親だということも知っていた私は、しかし「サンタクロースを信じている子供」という親の幻想を壊さないよう父親に「ねえパパ!くそサンタ!くそサンタだったんだけど!二度とくんなくそサンタ!」と猛抗議した。


 父は元から感情を露わにするタイプでは無かったので、何も言い返しては来なかった。

ただ、今思い返すと少しだけバツの悪そうな、寂しそうな顔をしていたような気もする。




 そして月日は流れ、だいぶ大人になった私に母がポツリと呟いた。


 「ここだけの話ね、パパの会社が潰れちゃって大変な時期があったのよ。あんたたちには悟られないように頑張って取り繕ってたけど、迷惑かけたねぇ」



 ハッとした。あのクリスマスが蘇る。そして後悔した。なんてことを言ってしまったんだろう。

 謝らなくては、あの日のことを。私は思い切って口を開いた。


「昔さ、クリスマスのプレゼントが絵本だった年あったじゃん?ごめんね、私、家が大変なことになってるなんて知らなくてさ、」 



「え?あれは単にあんたたちが何の希望も出さなかったからパパが適当に選んだだけだよ?」




 ハッとした。そうだ、父親はそういう人間だった。

 愛情が無い訳では決してないのだが、なんというかドライな人間だった。忘れていた。

 父親は、そういう人間だ……。



 しかしながら、父親の会社が潰れて大変だった時期は今でも分からない。わざわざ聞くようなものでもないと思うのでこれから先もその時期がいつだったか知ることは無いだろう。


 両親に改めて感謝しようと思った。